インプラント治療はおそらく20世紀の歯科医学の発展の歴史の中でも、
虫歯予防のフッ化物(フッ素)と並んで、もっとも特筆すべき「イノベーション」であると
言われている。私もそう思う。
事実、歯科医師はこれまで乳歯、永久歯、に続く「第三の歯」と捉え、
これまで多くの患者さんを救ってきた。
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私は97年の留学当初、せっかくインプラントの本場に留学したのに
インプラントにまったく興味がなかった。
イエテボリ大学はインプラントと並んで
「歯周病治療」の本場であったせいかもしれない。
そもそも歯周病専門医のオシゴトは、
インプラントを避けるべく天然の歯を
守ることであると思ってもいた。
ところが留学して3年目の頃に、教授から同じ大学内にある先の
「公立のインプラント専門クリニック(ブローネマルク・クリニック)」へ半年間の
研修を命じられた。
週に何日か、インプラント治療の基本を学ぶためである。
天然歯保存のエキスパート養成のカリキュラムで、
なぜ歯が抜けた後のことを学ぶのだろう?と思ったものだ。
私は学んでいるうちにその答えが分かった。
ただし、これはとても専門的な話なので、
機会を改めたいのだが(簡単にここで言うと)、スウェーデンでは治療が成功し、
残ってくれた天然歯の負担やリスクを減らすために、インプラントを利用するという
思想があるのだ。
およそ4年の留学生活を終え日本に帰国すると、
周りの歯科医師(一部ですけど)のインプラント治療への取り組みに、
とてつもない違和感を持つことが多かった。
あるシンポジウムに招かれた時のことだ。
出番を待つ間、同じセッションに登壇した有名なインプラント医の発表を聞いて、
私は仰け反ったのを覚えている。
彼はこう言い放った。
「歯が抜けた後、“インプラントが一番”と、皆さんが信念をもって患者さんに
説明すれば、患者はきっと受け入れてくれるはずです」
と。
真意は不明なので、ここでそれ以上書くことはフェアでないと思う。
これ以上は書かないが、私にはまず「インプラントありき」のような印象を受けた。
同時に、純粋なインプラント主義者でない私がそのシンポジウムの招かれた理由に
合点がいった。主催者のインプラント企業の担当の人の話によると、
「あまりに安易にインプラントを選択するケースが多くなり、
現場のセールスマンが心配し始めている。
インプラントの前に天然歯保存の基本が大切であることを
強調して、なるべく地味な症例写真を見せてください。」
と言われていたのだ。
「あはーん、これだな」と思った。
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